ブルックナー 交響曲9番

ブルックナー

ブルックナー

交響曲9番 ニ短調 WAB.109

1887年に作曲が始められたが、1896年、先にブルックナーの命が尽き、ついにフィナーレは未完に終わった。

ブルックナー 交響曲9番

第3楽章は、ブルックナーが完成させた最後の楽章。

暗闇から、じわじわと光が差し込み、だんだん場面が開けてくる。
状況が分かってくると、
暗い情景から静かにゆっくりと盛り上がると、光がほとばしり、
弦のトレモロは崇高な大自然のすばらしさにぶるぶると打ち震える。
ブルックナー自身「生との決別」と呼んだ次の下降音型は、まもなく訪れる生の終焉を嘆き、
弦のトレモロは今度は夏の終わりのヒグラシのような無常観をたたえて遠くにこだまする。

続く第二主題は、暗い緑色の草原で草が風にゆらいでいる。
別れを予期して一人たたずむブルックナー。心をしめつけるような風が吹いてくる。
まもなくやってくるであろう、目の前に広がる大自然との別れを、
どうすることもできずに寂しい笑顔で見守っている。

少し前向きに歩き出すと、自然の美しいところがたくさん見えてきて、
なぜ別れなければならないのか、哀しみがこみあげてくる。
それは定め、仕方のないこと……やがて寂しく光が落ちて消えてしまう。

また最初に戻ったり、激しくなったりして展開してゆく。

やがてもう一度第二主題が戻ってくると、今度は歩きながら。
自然の美しい部分を愛おしみ、
別れを惜しむが、やはりもうだめだとあきめてしまう。

もう一度思い直し、自然の荒々しい部分を抜けると、
森の奥の薄暗く静かな湖に出る。
寂光がさしていて、何が起きるのかと思っていると、
まったく予想だにしなかったことが!

みずみずしく美しい、高貴な和声で、
今まで共にあった大自然に深く感謝し、
秋晴れのように高く澄みわたった空を見上げる。
何度聴いても背中がゾクゾクする驚異の音楽!

その後、少し足早にもう一度振り返った後、
クライマックスは、まるで大海原の上を飛んでいるよう。
心からの大自然への謝念の中、
風のように最後の激しい混沌の中へと飛び込んでいく。

ブルックナーパウゼの真っ暗な静寂が訪れると、
やがておそるおそる光の世界に入って行く……。
コーダもすばらしい。
寂光が差し込み、この上なく穏やかで美しい、こがね色の草原で、
感謝と共に、安らかに消えていく……。

演奏は、やはり定番のシューリヒトもすばらしいし、
ヴァントもすばらしい。

終楽章が未完に終わったことがまったくもって悔やまれる。