ブルックナー 交響曲5番

ブルックナー

ブルックナー

交響曲5番 変ロ長調 WAB.105

1875年から1878年に作られた。なかなか演奏されず、ようやく1894年に初演されたが、本人はすでに病のため、ついに生涯、この交響曲の演奏を聞く事はできなかった。

ブルックナー 交響曲5番

ブルックナーの交響曲は、
最初に聞いたときには、何が何だか分からないが、
ひとたび心にその音楽が聞こえてくると、
そのすばらしさに聞いている間中ずっと感動できる。

交響曲第5番は、第2楽章から書き始められた。
真っ暗な中から厳かにピッチカートの前奏が始まり、
今は失われてしまった枯れた森を思わせる音色で第一主題が提示される。

やがて少しみずみずしい風が吹き、
森の中の湖には水がしたたり、
森はよみがえりつつある。

第ニ主題の厚い弦の響きによって、
暖かい春の風に包まれ、丘の草原の上に立たされる。
春は別れの季節。
はかない自然の美しさを肌で感じ、いとおしむ。

やがて草原をはるかに抜けると、
向こうに壮大な山が近づいてくる。
大自然の壮大さ、偉大さにあこがれ、
輝きが降り注ぎ、その中を全身に浴び、消えていく。

再び第一主題が、暗い中から一人力強く進んで行く。
やがて不可抗力的に自然の猛威が荒れ狂う。
それを楽しみに変えながら乗り越えていくが、
最後は翻弄され、消えてしまう。
孤独なパッセージが流れると、朝を迎える。

そして再び第ニ主題で、
いつものようにブルックナーの散歩が始まる。

朝の気持ちのよい空気に身を浸すと、
細くて消え入りそうな風が頬にまとわりついてくる。
あたりに咲く誰にも気づかれないような可憐な花に感動し、
さわやかな風の流れの中を進んで行く。

すると目の前にさらに荘厳な山が現れる。
その大自然の美しさ、堂々たる偉容にあこがれ、
畏怖し、貴重な自然の美しさが
過ぎ去ってしまうことへの名残を惜しむ。
そしてまた、はかなく、孤独なか細い風が吹いてきて、
暗い森の中を寂しく進んで行く。

やがてみたび第一主題が現れ、
一切はうつろいゆくはかないこの世の中で、
どんなに大切にしたくても、すべて別れねばならないことは
仕方のないことなんだと、強く進もうとする。

そして過去との決別を惜しみながら、
光の中へ登っていく。
頂上に到達すると、名残を惜しみながらも、
飛び立ってしまう。

あきらめと寂しさ、
幾重もの輝く風がからまってくる中を進んで行く、
春のあたかい風の中、別れを惜しむように進んで行くと、
希望の光が差してくる。

あたたかい風の中、
今までで最高に美しい大自然のすがたがあらわれる。
めくるめく日々が、過去へ過ぎ去って行く。

重なり合う木々の葉から、こもれ日が降り注ぐ
輝く光に浴しながら、自分と自然の区別がなくなって行き、
大きなる感動と、
これまで共に大切な時間を過ごさせてもらえたことへの
感謝の中、消えてしまう。

そして、ブルックナーの去ってしまった枯れ木の森は、
今は元通り静まりかえっている。
ブルックナーはどこか遠くの世界へ行ってしまったらしい。

演奏は、クナッパーツブッシュもすばらしいし、
ヴァントもすばらしい。